投稿者: タベアルキスト(Tabearukist Association) 02 Oct 2017

「美食旅」~羽越編~

「美食旅」~羽越編~ © TABEARUKIST ASSOCIATION

鳥海山の恩恵を受ける天然岩牡蠣

7月〜8月中旬にかけて、旬を迎える「岩牡蠣」。その特徴は、まずなんと言っても大きさ。大ぶりで肉厚な身は、殻付きで1個あたり300〜400g。大きなものだと、500gを超える。その身にはミルクをたっぷり携え、一重に頬張れば、磯の香りと共に、濃厚でクリーミーなミルクが口の中に広がる。素材の美味さをダイレクトに味わうなら、やはり「生」が1番だ。

特に、象潟産(秋田県)、庄内浜産(山形県)の天然岩牡蠣は、ブランドとして確固たる地位を確立している。今回出会った天然岩牡蠣たちは、威厳すら感じるほど立派に育っていた。美味しく頂けたのは言わずもがな。

なぜこのエリアの岩牡蠣は、大ぶりで美味いのか ──。その理由は、「湧水」にある。

日本百名山の1つ「鳥海山」

この鳥海山からもたらされる、極めて水質の良い地下水「伏流水」が、立派な岩牡蠣を育てるのだ。二つの県に跨る、標高2,236mの活火山「鳥海山」それがもたらす「伏流水」。この良質な水が、秋田と山形の両県にもたらす影響は、計り知れない。我々は、この「伏流水」が吹き出す現場に足を運ぶことにした。

鳥海山よりもたらされる恵み「元滝伏流水」

象潟駅から、車で南東へ約20分。鳥海山よりもたらされる伏流水が吹き出す「元滝伏流水(もとたきふくりゅうすい)」は、「平成の名水百選」にも認定されている観光スポットである。遊歩道を10分ほど進んでいくと、目の前に広がるのは、岩盤から吹き出す白妙の滝。なんとも荘厳で、幻想的な光景に圧倒される。 

さらに奥へと進めば、いっそう濃緑と白妙の滝とのコントラストが美しい光景を目にすることができる。取材当日は、突き刺すような日差しが汗を滲ませる天候であったが、ここ一帯は、それを完全に忘れさせるほど涼やか。そして、とても静謐な空間であることを認識する。ただ、滝の声だけが一帯に木霊する。生命の息吹は、猛々しい。

この湧水量だが、1日あたり5万トンほどあるそうだ。雪解け水など、鳥海山に染み込んだ大量の水が、長い年月をかけて、幅約30mの岩肌から豪快に吹き出す。このミネラルを豊富に含んだ「伏流水」が、岩牡蠣の餌となるプランクトンを育て、日本海へと流れ出る。また、伏流水は海底からも湧き出し、岩牡蠣の成長に適した水温を作る。故に、身が引き締まった、大ぶりな岩牡蠣が育つのである。

素潜りで獲る圧巻の天然岩牡蠣漁

天然岩牡蠣漁の最盛期は、7〜8月中旬にかけて。今回、【秋田県漁業仕会 第八直営丸の漁業士 佐々木健一さん】にご協力いただき、天然岩牡蠣漁の漁場へ。通常、漁団のリーダー達は早朝4時には起床し、その日の海の状態について確認を行う。天候も鑑み、出港可否を判断。その結果は掲示板を通して、各船・漁師たちに伝達されるのだそうだ。

岩牡蠣漁は、「くぐり」と呼ばれる海士たちが素潜りで行う。約4キロの重りを腰に巻き、スウェットスーツに身を包んだら、今度は籠を投げ入れ、最後に自身の体を大海に預ける。中空に佐々木さんのフィンが見えたら、戦闘開始の合図。籠のみを残し、佐々木さんの姿が海の中に消える。佐々木さんの一連の動作は、極めて力強く、そしてしなやかだ。

潜水後まもなくすると、海中から佐々木さんが勢い良く姿を現した。高く掲げたその手の中には、岩牡蠣を確認できる。1度に2〜3個ほどだろうか。約10m潜って岩場に張り付く岩牡蠣を鉄製のカキオコで剥がし取っていくのだが、予想よりもかなりの早業に、素直に驚くばかり。1時間もしないうちに、丸籠には数十個の牡蠣の山ができた。

獲れた岩牡蠣は、その日の午後催されたBBQでいただいた。炭火で炙られた牡蠣の身は、生の状態よりも、より一層身が引き締まった印象である。ずっしり舌に絡みついてくるようなミルク。それらが絡み合い、旨味の塊となって、食道を抜ける。

鳥海山の多大なる恵みを受けた「天然岩牡蠣」。それを食すことができるのは、佐々木さんのような漁師の方たちが居てこそである。海の幸と我々を繋いでくれている方々に、自然と感謝の念が湧いてくる。

港から直送される天然岩牡蠣をにかほ市観光拠点センター「にかほっと」で堪能する

秋田県は、にかほ市。県南西部・日本海側に位置する、人口2万5千人ほどの町である。その南の玄関口である「象潟駅」から車で北へ5分ほどのところに、『にかほ市観光拠点センター にかほっと』は在る。魚介・野菜の直売コーナーはもちろん、約100席のフードコートや多目的ルーム等も完備している。ちなみに、隣接する道の駅 象潟「ねむの丘」は、東北最大級の道の駅。温泉施設としても充実しており、県内外から多数のお客が足を運ぶ。このエリア一帯が、非常に活気のある観光レジャースポットになっている。この『にかほっと』の農林水産直売スペースに軒を連ねるのは、現在6店舗。地物の海産物や朝採れ野菜など、所狭しと並ぶ食材は、いずれも新鮮そのもの。それらを求めるお客の列は絶えない。

海産物を扱っている店では、店先で剥きたての天然岩牡蠣の食べ比べができる。天然岩牡蠣はググッと押し寄せてくる塩気・磯の香りは、非常にエッジが効いている。噛みしめれば、ミルクの袋がパンッと勢いよく弾け、口の中がたちまちミルクで満たされる。ジュゥワァッと。非常に濃厚で、ねっとりと絡みついてくるようだ。弾力に富んだ岩牡蠣の身は、大ぶり故に、噛みごたえも充分。噛みしめるほどにミルクと馴染み、牡蠣の旨味が凝縮されていく。

伏流水と共に生きる、秋田最古の酒蔵「飛良泉本舗」

鳥海山からもたらされる「伏流水」の恩恵は、海の幸だけに留まらない。先人たちの労苦と共に、また別の産物も生み出している ──「酒」だ。にかほ市平沢字中町に構える【飛良泉本舗】は、秋田県最古の酒蔵である。全国でも三番目に古いのだそう。

創業は1487年、室町時代中期まで遡る。以来五百有余年、昔ながらの【山廃仕込み】にこだわり、二十六代にわたって酒造りを続けている、由緒ある酒蔵だ。

酒の原料 ── 水・米・麹。秋田の米に、鳥海山の伏流水を使う。伏流水は、湧き出る場所によって水質が変化するそうだ。内陸部など、秋田県は軟水が多いというが、飛良泉に流れてくる水は「中硬水」。これが飛良泉の酒造りには適しており、出来上がる酒はより強く、やや辛口の傾向になる。

飛良泉本舗では、積極的に新商品の開発も行っている。芳醇な薫りと共に、深く力強さを放つもの。まろやかな酸味を纏い、まるで白ワインのようなフルーティーな味わいを発散するもの。味の多様性は、性別・年齢を超えて、幅広い世代の喉を潤す。

長きに渡って築き上げられた伝統に、時代にあわせた革新性を融合。様々な表情を見せてくれる「飛良泉の酒」。そのベースには、鳥海山の「伏流水」の存在がある。

天然岩牡蠣漁の「いま」を聞く

山形県内を縦断する「最上川」の河口に位置する「酒田港」。その直ぐ側にあるのが、ここ「さかた海鮮市場」である。食事処も在り、日本海や港を眺めながら、水揚げされたばかりの新鮮な魚介たちを踏んだんに楽しむことができる。

この市場の1Fに構える【菅原鮮魚 さかた海鮮市場本舗】は、庄内浜産で獲れる「地魚」を主に扱われている鮮魚店。鮮魚は勿論、加工品も多数扱われており、それらを求める多数のお客さんで朝から賑わっていた。

庄内エリアにおける岩牡蠣漁について、こちらの【菅原鮮魚 庄内地区業務卸担当チーフ 佐藤和紀さん】に、話をお聞きすることができた。

まず水揚げ量だが、ここ数年だいぶ減ってきているのだそう。水質・水温などの海中環境の変化が、その大きな原因では無いかとの事だ。これは、秋田県「にかほっと」で聞いた話とも重なる。

また、水揚げ量の良し悪しは、その年によって、またエリアによっても異なるという。さらに、岩牡蠣漁の時期は7月〜8月に集中するが、その期間内でも「最初は良かったのに、後半は……」などという状況もあるそうだ。「日々変化する、買い手のニーズ(大きさ・数量など)に応えていくのも、なかなか大変」という佐藤さんの言葉が心に沁みる。

鳥海山の伏流水で育った旬の味覚を名店でいただく ~笑福~

象潟駅から車で南へ5分ほどのところに、居酒屋「笑福」は在る。創業は1998年だそうだから、間もなく20年になる。地元の方が太鼓判を押す、人気店だ。まるで民家を改装したような店内は、落ち着いてしっぽり呑める雰囲気を十分に纏っている。

こちらで頂けるのは、「地」の食材を中心とした海の幸。そして、山の幸。中でも、やはり海の幸の醍醐味を味わえる刺身盛り合わせは外せない。素材の持つ旨味を心底楽しめる厚み、そして絶妙な温度にて提供される。ネタごとに歯応えや旨味は異なるものの、共通しているのはネタが放つ活力、みずみずしさである。

鳥海山の恩恵を受けた魚介料理

【天然岩牡蠣】

象潟の天然岩牡蠣は、頬張ろうと口に殻を持っていくと、鼻腔がたちまち磯の香りに包まれる。改めて見ると、身全体に対して、ミルクが占める割合が非常に大きいのが分かる。育ちの良い証拠だ。口に頬張った次の瞬間、パンッと膜を破り、一瞬にして口の中に撹拌するミルク。ねっとりと舌全体を覆い、弾力に富んだ牡蠣の身と絡み合う。一連の流れの中に、水っぽさなど皆無だ。食道に抜けたあとに残る、なんとも言えない余韻に浸る。

【串あなご】

圧巻のビジュアルは、穴子をくねらせ串に刺し、丸焼きにしたもの。登場とともに、なんとも香ばしい薫りが立ち込める。これを一口サイズにぶつ切りし、いただく。丸焼き故に部位ごとに異なる食感・味わい、その振り幅が実に楽しく、終始飽きることはない。噛むたびにググッと跳ね返してくるような弾力に、独特の苦味や香ばしさが同居する。唾液と混ざり合いながら、口の中に穴子の素の旨味が染み渡る。

【アジフライ】

海からほど近い居酒屋で食らうアジフライは美味い。やや粗目の衣に身を包んだ鯵は、もちろん地物。ふっくらとしながら、儚く崩れる身の美味さを感じるには、ほどよい厚さである。衣も厚すぎず、油切れも良好。

鳥海山の伏流水で育った旬の味覚を名店でいただく ~Restaurant Nico~

山形県は酒田市。JR羽越本線酒田駅から、南へ車で約10分の所に在る「Restaurant Nico」。こちらで頂けるのは、庄内の“旬の食材”を使ったフランス料理。「酒田でしか味わえないフランス料理」をコンセプトに、魚介・肉・野菜は勿論、塩やハーブ等の調味料までも庄内産にこだわる。

お店のオーナーシェフを務めているのは、【太田舟二(しゅうじ)さん】。尚、太田さんのお父様も、同じ酒田市で50年の歴史を持つ老舗フランス料理店「欅(けやき)」の総料理長として、厨房を取り仕切っておられた方。現在は「ロジアス」という、やはり酒田市に構えるフランス料理店の顧問をされているそうで、酒田になくてはならないフレンチシェフ親子と言えるだろう。

今回頂いたおまかせコースは、岩牡蠣はもちろん、だだちゃ豆や椎茸、バイ貝、真鯛など、いずれも庄内産の食材が皿を飾り、メインは山形牛が担う。庄内の海と大地で育まれた生命が、ギュッと凝縮されたような2時間半であった。

庄内の海と大地の幸が絶妙に交わる料理

【桃と岩牡蠣のマリネ、ミントの香り】

「天然岩牡蠣」と「桃」の協奏曲。濃厚なミルクを携えた牡蠣。充分に携えたミルクの発散と同時に、桃を抱き寄せ、旨味・塩気を覚醒させる。若い桃の身は凛としており、ほどよい噛み応えが牡蠣との食感に緩急をつけてくれる。これが実に心地良い。また、降り掛けられた鳥海高原ヨーグルトをフリーズドライしたパウダーは、その優しい酸味で主演を引き立てる。庄内の海と大地の恵みが、口の中で見事に調和する逸品。

【黒バイ貝のコロッケ ブルゴーニュ風】

シェフのスペシャリテ。薄手の衣の中に隠れていたのは、細かく刻まれたバイ貝。さっくりと揚がった軽い衣の食感を携え、終始押し返してくるような弾力が心地良い。鮮やかな濃緑のパセリソースとの相性も抜群で、濃厚な甘味と塩気が、オイルを伝って口内を染める。庄内の山と海。ここでも、この二つの幸がとてもいいハーモニーを奏でていた。

【山形牛フィレ肉のロースト 庄内野菜を添えて】

メインを飾るのは、山形牛。添えるのは、遊佐の海水で作られた「酒田の塩」。鳥海山の伏流水の恩恵を、しっかり受けている塩だ。山形牛のググッと迫ってくるような肉々しさは、和牛たる威厳を感じさせる。一方で、肉の繊維はなんとも素直。噛みしめるままに、トロけ崩れる。また、付け合わせのアスパラ、ヤングコーンは香ばしく炙られ、素材の芯に瑞々しさを内包する。噛み締めると、ジュワァッと優しく滲み出てくる甘味は、庄内の大地で育まれたものである。

鳥海山の伏流水で育った旬の味覚を名店でいただく ~こい勢~

老舗の鮨店「こい勢」は、JR羽越本線(うえつほんせん)が通る酒田駅から、徒歩3分ほどのところに在る。暖簾をくぐるお客には、地元の方々はもちろん、他県からも多数居られる人気店だ。店主を始め、3名の職人たちが握る鮨ダネは、新鮮美味な地物を中心にラインナップされる。ここでしか味わえない鮨を頂け、且つ、鮨屋と言えど気軽に暖簾をくぐれる点が、この人気の要因だろう。

庄内の天然岩牡蠣。立派な殻に、身を潜めるように収まった牡蠣の身。この旅で食したものの中では小ぶりな部類に入りそうだ。ただ、身全体に対してミルクの占める割合が多く、また磯の香りも僅かにマイルドで、よりこってりと、より濃厚な味わいを楽しめた。改めて、個体差による味わいの違いが面白い。磯の香り・塩気・ミルク量など、「生」故にダイレクトに感じる違いが、この旅を魅力的する1つの要素になっていることを痛感した次第だ。

新鮮な地物を活かした江戸前鮨

鰯・本鮪・雲丹軍艦など、今回いただいた「旬のおまかせ握り」は十貫で構成される。いわゆる高級なネタも織り交ぜながら、この酒田という土地だからこそ頂ける海の幸をリーズナブルに頂けるのは、素直にうれしい。尚、こちらの握りは、全体的に丸味を帯びているのが特徴である。「シャリの大きさ、お好みで無ければ言ってください」とお気遣い頂くが、ぜひそのまま頂こう。全体のバランスを考えた上でのフォルムである筈なのだから。

【のどぐろの炙り】

「これがウチで1番人気」と言うのどぐろは、シンプルに塩でいただく。濃縮した旨味は塩によって一層引き立ち、口の中はたちまちその旨味で染まる。炙り故の香ばしさを放ちながら、のどぐろの旨味がギュッと詰まったようだ。シャリの一粒一粒が、のどぐろの脂でコーティングされ、ネタとの一体感も申し分ない逸品であった。

【ガサエビ】

鮮度が落ちやすく、市場にはあまり出回らないという。天然岩牡蠣同様、鳥海山の恩恵を受けている、まさにここでしか食べられないネタだ。甘海老よりもより重く濃ゆいネットリ感が、なんとも特徴的である。歯や舌にまとわりついてくるかのような御身に、みずみずしさや活力のようなものを感じた。

羽越。そして、日本海きらきら羽越観光圏について

“羽越”──。秋田県・山形県・新潟県の、日本海沿いの10市町村(*)に跨るエリアを指す。山・海・川の大自然を有し、その土地に根付いた文化が形成されている。日本海が作り出す、彩り豊かな風景。季節ごとに見せる異なる表情は、貴重な出会いへと誘(いざな)い、我々を魅了する。まさに、ここでしか得られない体験がある。

「日本海きらきら羽越観光圏」とは、この羽越エリアの10市町村が連携し、お互いの観光資源の魅力を引き立てながら、2泊3日以上の滞在可能なエリアを形成する取り組みである。国内外への魅力発信・向上はもちろんのこと、国際競争にも対応できる観光地作りを目指している。

(*)

【秋田県】 にかほ市

【山形県】 鶴岡市、酒田市、戸沢村、三川町、庄内町、遊佐町

【新潟県】 村上市、関川村、粟島浦村


タベアルキスト / Tabearukist Association

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タベアルキストは年間約300軒以上の外食をする食べ歩きマニアの集団「Tabearukist Association」に所属するメンバーです。タベアルキストの考える「食べ歩き」とは、幾つかのお店を巡り、わざわざ食べに行く価値のある逸品を食べまくることです。またタベアルキストは時にライターとして、日本全国にある魅力的な「食」の情報を実際に取材し、客観的な視点で発信していきます。


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